逆さごととは?意味や儀式で行われる風習、宗派ごとの特徴を解説します
ご葬儀に関する物事を、通常とは逆の方法を用いて行うことを「逆さごと」といいます。本記事をお読みになっている方の中にも、「縦結び」「北枕」といった風習をご存知の方も多いのではないでしょうか。
日本では当たり前のように行われているものですが、なぜ一般的な方法で行わないのかと気になっている方も多いことでしょう。そこで今回は、逆さごとの意味や由来について解説し、主な風習も併せてご紹介いたします。
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逆さごととは?
逆さごととは、主にご葬儀に関する物事を行う際、通常とは反対のやり方で執り行うことを指します。古くから日本に根付いている慣習ですが、その行為にはどのような意図があるのでしょうか。まず、逆さごとの基礎知識からご紹介していきます。
逆さごとの意味・由来
逆さごとの意味には諸説ありますが、あの世とこの世を区別するための習わしというのが通説です。日本において死は非日常と考えられ、古来より忌み嫌われてきました。その中で生と死はしっかり区別したいという考えが生まれたことが、逆さごとの起源といわれています。
また、古くから生の世界と死の世界の物事は、正反対であると信じられてきました。そのため、故人様があの世とこの世の違いで苦労しないよう、すべての物事を逆にして困らないようにという心遣いの意味があるとされています。
なぜ「逆さ」にするのか?
先ほども述べたように、逆さごとは故人様が過ごされる世界と、私たちが生きている世界をはっきり分けるために行うものとされています。また、あの世とこの世は真逆の世界であると信じられていることから、あえて物事を逆の方法で行い、旅立ちの準備を整えるという意味合いもあります。
儀式で行われる逆さごとの例
現代における儀式の中にも取り入れられている逆さごとですが、その種類は実にさまざまです。以下では、古くから伝えられてきた10個の風習をご紹介します。
死装束を左前にして着せる
死装束とは、故人様が身につける白い着物のことです。一般的な着物は、右前(右側の衿を左側の衿の上に重ねる着用方法)が正しい作法とされています。一方で、あの世へ旅立つときに必要な格好とされている死装束は、左前にして着せるのが通例です。
かつては高貴な方が、着物を左前で着用する時代がありました。そのような時代背景から、人生を終えて神仏に近い存在となった方の着物も、左前で整えるようになったといわれています。しかしながら現代では、生と死を区別するといった意味合いが強いです。
縦結び(死装束の紐を縦に結ぶ)
亡くなられた方に着せる死装束には紐(帯)がついており、結び方は蝶結びや本結びではなく、縦結びが基本です。日常的に用いられている蝶結びや本結びには、結び目が横向きになる特徴があります。それらに対し、結び目が縦向きになる特徴がある縦結びを用いることで、生と死を区別しているのです。
なお、縦結びは死を連想させるという理由から、日常生活の中ではほとんど使われていません。洋服の紐やお菓子のリボンなどを縦結びにするのは縁起が悪いとされていますので、くれぐれもご注意ください。
北枕(頭を北にして寝かせる)
仏式のご葬儀で故人様を安置する際は、北枕で寝かせる(頭を北にして寝かせる)のが通例です。この風習は、お釈迦様が入滅したときに、頭が北の方角を向いていたことに由来します。ご遺体をお釈迦様の入滅時と同じ状態にすることで、故人様への敬意や旅の無事を祈る気持ちを表しているとされています。
逆さ着物(着物を逆さに着せる)
日本には故人様に死装束を着せた後、その上から着物をかける風習があります。その際、着物の衿を足元のほうに、裾を首元のほうにかけるのが逆さ着物です。
逆さ屏風(屏風を逆さに立てる)
安置されているご遺体の枕元に、屏風を逆さまにして立てる行いを「逆さ屏風」といいます。これは枕飾りの一環として行われるものであり、故人様を悪霊からお守りするための儀式です。
逆さごとを象徴する風習の一つですが、近年は省略されることも多く、見かける機会が少なくなってきています。
逆さ水(水にお湯を注いで温度調整する)
日常生活の中でお湯の温度を調整する際は、お湯に水を注ぐのが一般的です。しかし、亡くなられた方の体を洗い清める湯灌(ゆかん)では、水にお湯を注いで温度調整を行います。この風習が逆さ水と呼ばれるものです。
逆さ柄(川下に向かって水をすくう)
昔は湯灌で使用する水をすくう際、川上ではなく川下に向かってすくうという逆さごとがありました。この行いを逆さ柄といいます。
逆さ布団(布団の上下を逆にかける)
逆さ布団とは、ご遺体を安置するときに、布団の上下(天地)を逆さにしてかけることです。ほかの風習と同じく、通常とは逆の方法を用いることで、生と死を区別しているといった意味合いがあります。
ご遺族の想いや故人様からの生前の希望により、ご遺体を自宅で安置するケースもありますが、その場合にも掛け布団は上下を逆さにしてかけるのが一般的です。
洗濯物を北向きにして干す
逆さごとの中には、洗濯物をあえて北向きにするという風習もあります。現代において、洗濯物を北向きにして干すことは珍しくありませんが、亡くなられた方のために行うものという名残から、縁起が悪いと感じている方もいらっしゃるようです。
夜間に葬儀を行う
夜間にご葬儀やお通夜が行われるのは、あの世とこの世の昼夜が逆転していると考えられているためです。前述の通り、日本では生の世界と死の世界の物事は正反対であると信じられてきました。そのため、「あの世が明るいとされている時間帯に送り出してあげたい」という心遣いから、夜間に行うようになったといわれています。
特定の宗教・宗派における逆さごとの決まり
古くから行われている逆さごとですが、宗教・宗派によって違いはあるのでしょうか。最後に、特定の宗教・宗派における逆さごとの決まりについて解説します。
浄土真宗では逆さごとを行わない
仏教の宗派の一つである浄土真宗では、亡くなられた方はすぐに成仏すると考えられています。加えて、生と死を切り離すために儀式を行うという概念が存在しないため、逆さごとは必要ないとするのが浄土真宗の考え方です。
神道でも逆さごとの風習は存在する
仏教とは死生観が異なる神道にも、逆さごとの風習は存在します。前述の通り、逆さごとは日本特有の概念であるため、日本の宗教である神道が取り入れていても不思議ではありません。なお、神道のご葬儀では北枕をはじめ、逆さ屏風や逆さ水の風習が見られます。
まとめ
逆さごとは日本で生まれた風習であり、「故人様があの世で困ることがないように」という願いが込められています。人の死を連想させることから「縁起が悪い」といわれがちですが、本来は亡くなられた方の成仏を手助けするための行為であり、ご葬儀において重要な意味を持っていることも事実です。
本記事を読んで知識を深められれば、ご葬儀を執り行う機会が訪れたとき、故人様をより良い形でお見送りできるでしょう。
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