ご葬儀で使われる樒(しきみ・しきび)とは?宗派ごとの使われ方、値段などの解説
樒(しきみ・しきび)とは、仏式のご葬儀で使われている植物のことです。関東地方以西から沖縄地方に分布する常緑樹ですが、なぜ仏葬に用いられているのか気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、樒がどのような植物なのか解説し、仏教とのかかわりやご葬儀における役割についてもご紹介いたしますので、仏事の知識としてお役立てください。
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ご葬儀で使われる「樒(しきみ・しきび)」とは?
樒とは、マツブサ科シキミ属に分類される常緑小高木です。読み方は「しきみ」で、地域によっては「しきび」と呼ばれることもあります。
古くから仏教とかかわりのある植物で、現代ではご葬儀や法要のお供え物として用いられるケースが多いです。樒には「アニサチン」という猛毒が含まれており、果実を食べると嘔吐・意識障害・けいれんを起こし、重症の場合は死に至ってしまうことも少なくありません。
この毒が邪気を払うと考えられていることも、お供え物として使われている理由の一つです。ご葬儀や法要の場で樒を見かけた際は、お子様が誤食しないように十分に注意を払いましょう。
樒の読みの由来
少し変わった名前をしている樒ですが、読みの由来にはいくつかの説があります。その中でも、一年を通して美しい緑色の葉を保っていることから、「四季見(しきみ)」「四季美(しきび)」と呼ばれるようになったというのが通説です。
そのほか、果実に強い毒性があることから「悪しき実」と扱われ、「あ」の部分を取って「しきみ」となったという説もあります。いずれの説も、植物としての性質が名前の由来になっているようです。
樒の特徴
樒という植物があることは知っているものの、その特徴を把握していない方も多いのではないでしょうか。以下に主な特徴をまとめましたので、一つずつ見ていきましょう。
<樒の主な特徴>
●通年濃い緑の綺麗な葉をつけている
●葉に光沢があり、波打っている
●高さ10メートルほどにまで成長する
●春になる薄い黄色の花が咲く
●独特な強い香りがある
●花から根まですべての部分に毒性がある
樒がお供え物として重宝されている理由の一つに、常緑樹という点が挙げられます。一年を通して美しい葉をつけているため、時期を問わずに行われるご葬儀や法要のお供え物に向いているというわけです。
また、独特な香りや毒性があることから、仏教では「悪霊や邪気を払う力がある」と考えられています。つまり、仏事において樒は、故人様をお守りする重要な役割を果たしているのです。
樒と榊(さかき)の違い
樒と混同されがちなものに「榊(さかき)」という植物があります。どちらも一年を通して綺麗な葉をつけており、祭壇やお墓のお供え物として使われていますが、双方には明確な違いがあるので覚えておきましょう。
樒 | 榊 |
---|---|
・複数の葉が密集している ・独特の強い香りがある ・仏事に使われる |
・葉が左右対称についてる ・ほとんど香りがない ・神事に使われる |
樒は、枝先に葉が集まるようについており、独特な強い香りを発しています。一方で、榊は枝の下の方から左右交互に葉がついていて、香りはほとんど感じられません。似ていない特徴も多いので、ご紹介した特徴さえ把握しておけば、混同することもなくなるでしょう。
また、仏事では樒が使われており、神事では榊が使われているのも大きな違いです。どちらもお供え物として重宝されていますが、「仏教は樒、神道は榊」と覚えておきましょう。
ご葬儀における樒の使われ方
前述の通り、樒は仏壇やお墓のお供え物として使われることが多いですが、関西地方では斎場の飾りにも用いられています。斎場の入り口や寺院の門前に飾る「門樒(かどしきみ)」や、祭壇の両脇後ろに飾る「二天樒(にてんしきみ)」など、その用途はさまざまです。
なお、門樒と二天樒を飾るのには、斎場に結界を張るという意味があります。地域や宗派によってご葬儀の作法は異なりますので、いざという場合に備えて確認しておくと安心です。
樒の役割
樒の主な役割は、故人様を悪霊や邪気からお守りすることです。独特な香りを放ち、強い毒を持つ樒は、古来より悪霊・邪気払いの力があるとされてきました。また、ご遺体の臭いを緩和する効果があることも、仏事に用いられている理由の一つです。
上記に加えて、樒には唐代の高僧である鑑真(がんじん)が中国から日本に持ち込んだという歴史があります。そのほか、真言宗の開祖である空海(くうかい)は、修行に使う青蓮華(しょうれんげ)の代わりに樒を使ったといわれています。
仏教において樒が重要視されているのは、植物の性質がお供え物に適しているだけではなく、宗教と深い結びつきがあるためです。
樒が使われるタイミング・場面
仏教と縁が深い樒ですが、具体的にどのような場面で使われているのでしょうか。ここからは、樒が使われる主なタイミング・場面について解説していきます。
会場の飾りつけ
地域や宗派にもよりますが、樒はご葬儀が行われる会場の飾りつけに用いられています。特に京都を中心とした関西エリアでは、斎場に「門樒」や「二天樒」などを飾るのが一般的です。
末期の水
末期の水とは、臨終後に故人様の唇を濡らす儀式のことです。この儀式は、仏教の創始者であるお釈迦様が、喉を水で潤した後に安らかに旅立ったという伝承に由来します。
故人様の唇を濡らすための水をとる際、一般的には脱脂綿を使うケースが多いです。しかし、地域によっては樒を使うこともありますので、その場合には風習に則って儀式を執り行いましょう。
枕飾り
枕飾りとは、故人様が亡くなってからお通夜やご葬儀を行うまでの間、ご遺体を安置する際に作られる祭壇のことです。仏教の枕飾りでは一輪の花をお供えしますが、お花の代わりに樒を使うこともあります。
供花
仏式のご葬儀では、供花として樒または生花と混ぜたものをお供えできます。斎場には白色を中心とした生花を飾るのが一般的ですが、近畿地方では樒を飾るのが通例となっています。
宗派ごとに異なる、樒とのかかわり
ここでは、主な宗派における樒との関係性について解説します。同じ仏教であっても、宗派によって樒の使われ方が異なりますので、どのような違いがあるのか確認していきましょう。
浄土真宗での樒
浄土真宗では、故人様は亡くなると極楽浄土に導かれると考えられています。極楽浄土には「八功徳水(はっくどくすい)」という8つの功徳を備えている水があふれているとされているため、基本的に水やお茶をお供えすることはありません。
その代わりとして、樒を華瓶(けびょう)という仏具に挿してお供えします。その理由は、樒が持つ強い香りと毒が邪気を払い、水を清められると考えられているからです。
浄土宗での樒
浄土宗は、日本の僧である法然上人(ほうねんしょうにん)が開いた宗派です。こちらの宗派でも樒には邪気を払う力があるとされており、仏壇やお墓のお供え物として、また儀式の際にも用いられています。
一般的に、浄土宗では仏花(菊や百合など)をお供えすることが多いですが、花の代わりに樒をお供えする地域も珍しくありません。
日蓮宗での樒
日蓮宗の経典「法華経(ほけきょう)」の中には樒に関する記載があり、古くから特別な植物として扱われてきました。神聖なものであることには変わりありませんが、ご葬儀における樒の使われ方については宗派によって違いが見られます。
例えば、日蓮宗では祭壇に花を飾るのが一般的ですが、日蓮正宗では樒のみを飾るのが通例です。樒は一年を通して葉が枯れないことから、日蓮正宗では「仏の徳が続くことを表すもの」とされており、祭壇の飾りつけに用いられています。
樒はどうやって手配する?
樒は葬儀社に手配してもらうのが基本ですが、個人で入手することも可能です。いざという時に備えて、主な購入場所も確認しておきましょう。
樒を購入できる場所
樒を取り扱っているお店は意外と多く、具体的には次のような場所で購入できます。
<樒を購入できる主な場所>
●スーパーマーケット
●ホームセンター
●ガーデニングショップ
●仏壇店
樒はスーパーマーケットやホームセンターなどで販売されていることが多く、お店によっては束ではなく、鉢植えで販売しているところもあります。個人で購入する必要が出てきた場合には、お近くの店舗に足を運んでみると良いでしょう。
注意点として、関東より北の地域は樒の需要が低く、上記のお店でも取り扱っていないケースが多いです。そのため、事前に確認してから買いに行くことをおすすめします。
また、オンラインショップでの購入も可能ですが、商品の中には本物そっくりな造花もあるので注意が必要です。
樒の価格相場
樒の価格相場は、一束あたり500〜800円程度です。なお、斎場の入り口などに飾る門樒はおおよそ10,000〜30,000円、花輪の代わりとして用いる樒は10,000円前後が相場とされています。
板樒や紙樒で代用する場合もある
近年では、ご葬儀を小規模で執り行う傾向があり、門樒を飾るためのスペースを確保することが難しくなっています。そのような背景もあり、板樒や紙樒で代用する場合も少なくありません。
どちらも本物の樒を使いませんが、代わりに樒という文字を使うことで門樒を飾る意味を残しています。ただし、板樒や紙樒の習慣がない地域もありますので、ご葬儀を執り行う際には事前の確認が必須です。
まとめ
樒は古くから仏教と深いかかわりがあり、現代でも仏事のお供え物として重宝されています。特に関西地方では斎場に樒を飾るという風習が強く残っていますので、京都や大阪などで参列される際のご参考になれば幸いです。
また、ご葬儀の作法は地域や宗派によって異なり、お供え物に用いられる草花にも違いが見られます。昨今は儀式の方法が多様化していますが、古くからの慣習を重んじる方もいらっしゃいますので、最低限のマナーを把握しておくことが大切です。
間違えのない葬儀社の選び方や注意点をはじめ、さまざまな葬儀の知識・マナーを分かりやすくお伝えします。