ご葬儀で泣くことが仕事の「泣き女」とは?歴史や世界各国での風習を解説します
他人のご葬儀に参列し、泣くことを仕事とする「泣き女」という職業をご存知でしょうか。現代の日本では見かけなくなりましたが、その歴史は長く、他国では大切な慣習として今も受け継がれています。
しかしながら、泣き女について耳にしたことはあるものの、具体的な詳細についてはご存知でない方も多いのではないでしょうか。本記事では泣き女の役割や歴史について解説し、世界各国で見られる風習もご紹介いたします。
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泣き女とは、ご葬儀で泣くことが仕事の女性
泣き女とは、ご葬儀の時に雇われて儀礼的に涙を流す女性のことです。「なきおんな」または「なきめ」と呼ばれており、「哭き女」や「哭女」とも書かれます。
具体的な仕事内容はご葬儀に参列し、出棺などの際に率先して号泣することです。ご葬儀が粛々と行われる中、その姿を見て涙する参列者も少なくありません。大切な方を失った際、悲しみやショックから涙が出ないこともありますが、泣き女は泣けない方の手助けをするという役割を担っています。
なぜ涙を誘うことが職業として成立したのかというと、儒教では参列者の涙の量が多いほど、故人様の徳が高くなると考えられているためです。かつて日本にも泣き女は存在していましたが、静かに偲ぶという現代の風潮に合わないこともあり、今では見かけることがなくなりました。
泣き女のお給料はどのくらい?
泣き女のお給料は、時代や国によって大きく異なります。例えば、かつての日本はお金ではなく、お米を報酬として渡していました。泣き方に応じたお米の量が決まっており、「五合泣き」や「一升泣き」などと呼ばれていたそうです。
また、現在も泣き女が存在する中国では、1回につき平均200元(日本円でおよそ3,000円)という情報もありますが、真意は定かではありません。報酬額は、演技力や話術などによっても変わってきますので、あくまでも参考程度に留めておきましょう。実力が評価されて人気を集めると、多くのご葬儀に呼ばれて高収入を得られる場合もあるようです。
泣き女の歴史
日本ではすっかり見かけなくなった泣き女ですが、かつては日本全土に存在し、ご葬儀の場で見かける機会も少なくありませんでした。ここでは、日本や世界各国における泣き女の歴史について解説します。
古事記に泣き女と思われる記述が存在する
泣き女の歴史は非常に長く、日本に現存する最古の書物「古事記」でも存在が確認されています。その内容は、天若日子(アメノワカヒコ)のご葬儀を執り行う際、キジ科の鳥類を泣き女に任じたというものです。
明治時代までは泣き女の風習があった
かつて日本にも泣き女は存在しており、ご葬儀の場で泣いてもらうという風習は明治時代まで続いていました。時代の流れとともに廃れてしまいましたが、八丈島や奄美大島など島々が集まる地域では、戦前までご葬儀に泣き女を呼んでいたようです。
世界での泣き女の歴史
泣き女の風習は韓国や中国が有名ですが、そのほかにも泣き女が存在していた、あるいは今も存在している国がいくつかあります。例えば、古代エジプトには泣き女が存在していたといわれており、ある貴族のお墓には有名な泣き女の壁画が描かれています。
壁画は、親族の女性の集まりという意見もありますが、泣き女であるという説も有力であるようです。古代エジプトにおける泣き女は、お墓に向かうミイラを泣きながら見送ることが主な役割であったといわれています。
また、メキシコでは「ジョローナ(ヨローナ)」という伝説の女性が泣き女とも呼ばれています。この女性はある事情から我が子を失い、その後悔と悲しみから身を投げた結果、この世をさまようことになってしまったとされる有名な女性です。夜に我が子を求めて泣きながらさまようことから、多くの方に恐怖を与えたといわれています。
世界にはまだ実在する泣き女
現代の日本には存在しませんが、今もなお泣き女が実在する国はいくつかあります。それでは、世界各国における泣き女について詳しく見ていきましょう。
韓国
儒教の教えが根付いている韓国には、ご葬儀の場で涙を流し、故人様を偲ぶという文化があります。しかし、大切な方を亡くした悲しみのあまり、涙が出てこないケースも少なくありません。
そのような方々を助けるため、周りの方が代わりに涙するという習慣が生まれたそうです。なお、儒教が成立する前から泣き女は存在していますので、上記の習慣が泣き女の存在意義を高めていったと考えられます。
中国
韓国と同じく、中国も泣き女の存在が有名な国の一つです。儒教の教えにより、ご葬儀で泣くことが故人様の徳を高めるとされていることから、現在も大切な風習として受け継がれています。また、泣き女の人数が家の名誉に関わるとされていたため、同じご葬儀に50人ほど呼ぶこともあったようです。
台湾
台湾で泣き女は「孝女(ハオルー)」と呼ばれています。韓国や中国と同様に、台湾も儒教の教えが根付いており、亡くなった方のために号泣することで、より良い供養につながると考えられています。このような宗教的背景もあり、現代においても泣き女の存在意義は高いといえるでしょう。
ヨーロッパ
ヨーロッパ圏においては、イギリスの泣き女の存在が有名です。イギリスには「バンシー」という妖精の伝承がありますが、泣き女はそのバンシーの化身であるといわれています。
バンシーとは、死が近い方の家に現れる女性の妖精のことです。身分の高い方が亡くなる際に姿を現すとされており、死の予告を受けることは大きな名誉であると考えられています。その役目を果たすのが、イギリスにおける泣き女の主な役割です。
まとめ
泣き女とは、ご葬儀の場で儀礼的に涙を流す女性のことです。儒教では参列者の涙の量が増えるほど故人様の徳が高くなると考えられており、かつての日本においても泣き女は重宝されていました。
現代の日本には存在しませんが、今もなお実在する国はいくつかあり、職業として成り立っています。形式的に泣く行為に違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、その目的や歴史を知ることで尊重できるようになるでしょう。
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