陰膳とは?用意する目的やご葬儀・法要でのマナーを解説
ご葬儀や法要の際、たびたび耳にする言葉のひとつとして「陰膳」が挙げられます。これは日本に古くから伝わる慣習であり、故人様や大切なご家族のために用意するものですが、「どういう意味を持つの?」「なぜ行うの?」と戸惑っている方も多いでしょう。
今回は、「いつまで用意するべきなのか」「用意する際の注意点は?」など、陰膳に関するルールやマナーについて詳しく解説します。
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陰膳とは?
陰膳は、大切な方のために用意する食事のことであり、地域によって「影膳」と記載することもあります。この陰膳は、一般的に以下のような意味合いを持っているとされています。
目的①離れた場所にいるご家族の安全を祈願する
昔はメールや電話などの連絡手段が乏しかったため、離れた場所にいるご家族の安全をすぐに知ることは困難でした。事故や飢餓で苦しむことがないよう、無事を祈って食事を用意していたようです。また、戦地に駆り出されたご家族の安全を祈願して準備していたともいわれています。
目的②故人様の極楽往生を祈願する
陰膳には「故人様の極楽往生を祈願する」という意味も持ち合わせています。お亡くなりになってから四十九日までの間は食事を用意し、無事に極楽浄土へたどり着けるよう安全を祈願して支度するのです。
なお、現代は遠くにいるご家族とすぐに連絡が取れるため、故人様に向けた食事という意味合いで捉えている方がほとんどです。
ご葬儀・法要での陰膳に関するマナー
続いて、ご葬儀や四十九日法要などで支度する際に注意したいマナーについて解説していきます。初めて喪主を務める際には難しく感じるかもしれませんが、無理のないよう少しずつ覚えていきましょう。
陰膳で用意するのは「精進料理」
仏教の教えに沿って、煩悩を呼び起こすことのない「精進料理」を用意します。よくある献立は、煮物やお吸い物、お漬物などの一汁三菜です。特に決まった献立はありませんが、使ってはいけない食材があるため注意してください。
・ 肉、魚、卵
・ ニンニク、ネギ、ニラなどのにおいがきつい食材
殺生を禁じているため、仏教では肉・魚・卵を使用できません。またニンニク・ネギ・ニラなどのにおいがきつい食材は、煩悩を呼び起こし修行の妨げになるため避けられています。なお、法事などで会食を開く場合は近所のお店にお弁当を用意してもらうのもひとつの手です。
陰膳で使う仏具は「仏膳椀」
仏具である「仏膳椀(ぶつぜんわん)」を用います。通常の食器を使うのはマナー違反なので、もし手元にない場合には時間があるときに購入しておきましょう。
陰膳の配置場所
食事を用意したら専用の食器に盛り、正しい場所に配置します。配置場所については下記をご覧ください。
<陰膳の配置場所>
名前 | 料理 | 配置場所 |
親椀(おやわん) | ご飯 | 左前 |
汁椀(しるわん) | お吸い物など | 右前 |
高坏(たかつき) | お漬物など | 中央 |
平椀(ひらわん) | 煮物・和え物など | 左奥 |
壷椀(つぼわん) | 煮豆・和え物など | 右奥 |
宗派によって置き方が異なる場合もありますが、基本的には上記のように準備します。並べた後は、写真や位牌などの故人様を象徴するものに向けてお供えしてください。
陰膳から配膳する
法事などでご家族が集まって会食をする場合、上座となる故人様の陰膳から配膳するのが決まりです。ただし、地域によって考え方が異なる場合もあるためあくまで基本的なマナーとして知っておいてください。
最後にお下がりをご家族で残さずいただく
故人様のために用意した食事は、「お下がり」といって最後にご家族で残さずいただくのがマナーです。一口でも口をつけることが供養に繋がると考えられているため、もし食べきれない場合は捨てずに持ち帰り、自宅で食べるようにしてください。
陰膳に関する注意点
最後に、陰膳に関して知っておくべき注意点を紹介していきます。知らないままご葬儀や法要を迎えてしまうと、思いがけない部分でマナー違反をしてしまう可能性もあるためぜひ押さえておくようにしてください。
浄土真宗では陰膳のお供えをしない
浄土真宗では、お亡くなりになった後はすぐに極楽浄土へ行けるという「即得往生(そくとくおうじょう)」の考えに則り、陰膳を用意することはありません。一方、浄土真宗以外の真言宗・曹洞宗・日蓮宗などの宗派では陰膳の支度をしますので、宗派によって違いがあることを知っておきましょう。
陰膳とお供えは異なる
なかには陰膳とお供えを同じものとして考えている方もいますが、お供えする対象に違いがあります。
・ 陰膳:故人様や遠く離れているご家族
・ お供え:仏様
また、先述のとおり陰膳では一汁三菜の食事を用意しますが、お供えは食事に限らずお菓子やお花など食事以外のものも用います。それぞれの違いを覚えておくと、いざ用意するとなったときも困ることなく対処できるでしょう。
陰膳は四十九日までに行う
お亡くなりになった方が無事にあの世へたどり着くように祈って支度するものなので、陰膳を行うのは四十九日までと決まっています。故人様は、49日目に三途の川のほとりに到着すると考えられているため、それまでは毎日用意するのが望ましいとされています。なお、これ以降は陰膳でなく「お供え」となるため注意しましょう。
宗派や地域によってマナーに違いがある
前述のとおり、「浄土真宗では陰膳のお供えをしない」など宗派によって陰膳のやり方・考え方に違いが見られます。また、配膳の位置に関しても地域によって考え方が異なる場合もあるため注意しましょう。メニューに迷ったり、配膳のルールについて分からない点があったりする場合、ご親族や知識のある方に相談すると安心です。
まとめ
今回は、陰膳を用意する目的や配膳に関するマナーについて解説しました。宗派や地域によって若干の違いはあるものの、大事な仏教の慣習のひとつとして広く行われています。普段の生活ではあまり馴染みのないことかもしれませんが、大事な故人様を偲ぶためにも、献立や配膳位置などに関する決まりについて一度見直してみてはいかがでしょうか。
間違えのない葬儀社の選び方や注意点をはじめ、さまざまな葬儀の知識・マナーを分かりやすくお伝えします。